尾上右近自主公演 第十回「研の會」FINAL|10年の区切りに、明治座で

明治座の入口に置かれた「尾上右近 自主公演 第十回 研の會 FINAL」の立て看板 観劇レポート

明治座で、尾上右近丈の自主公演「研の會(けんのかい)」を観てきました。

正直に書くと、誘われて、チケットも取ってもらって行ったので、どういう公演なのかよく分かっていませんでした。

会場で、「FINAL」と書かれたTシャツを着たスタッフの方をお見かけして——

「ファイナル?」

明治座のロビーに並べられた研の會10年分のポスター
▲ ロビーに、10年分のポスターが並んでいました

しかも、10年分のポスターが飾られている。

「え? 最後なん?」

思わず、同行者に確認してしまいました。

公演情報

  • 公演名:尾上右近自主公演 第十回「研の會」FINAL
  • 日程:大阪・国立文楽劇場 2026年9月5日(土)・6日(日)/東京・明治座 10月2日(金)・3日(土)
  • 演目:一、藝阿呆/二、鷺娘/三、春興鏡獅子
  • 料金:一等席15,000円/二等席7,500円/三等A席5,000円/三等B席3,000円/立見席3,000円(ほか後援会向けの特別席あり)
  • 配役:尾上右近丈、胡蝶の精=尾上琴也さん・丸山紗奈さん ほか
研の會FINALの上演時間の掲示
▲ 明治座の掲示より

当日の上演時間

昼の部(10:15開場)
藝阿呆 11:00〜12:00(1時間)/幕間30分/鷺娘 12:30〜13:00(30分)/幕間25分/春興鏡獅子 13:25〜14:20(55分)

夜の部(15:45開場)
藝阿呆 16:30〜17:30(1時間)/幕間30分/鷺娘 18:00〜18:30(30分)/幕間25分/春興鏡獅子 18:55〜19:50(55分)

幕間が30分と25分。売店をのぞいたり、ひと息つくには十分な長さでした。わたしが観たのは、10月2日の夜の部です。

福岡から、飛行機で

福岡空港から、午前中の便で羽田へ。

大型機だったので、ゆったりしていて感動しました。 普段はLCCの利用が多いので、機内の広さだけで少し旅の気分になります。

初めての明治座

今回のチケットは、同行者がイープラスで通常購入してくれたもの。それなのに、花道の外の、とても良いお席でした。

初めての明治座です。

明治座の緞帳。富士山とひまわりが描かれている
▲ 開演を待つあいだの緞帳

とても落ち着いた雰囲気で、どこかしら博多座に似た建物の作りだなと思いました。初めてなのに、妙に落ち着いてしまって。

客席の1階にブティックがあります

これは知らなかったのですが、客席の1階にブティックがあるんです。

ストールなども置いてあったので、「東京は肌寒いし、買い足そうかな」と思っていたのですが——終演後には閉まっていました。 笑

気になるものがあったら、幕間までにどうぞ。

客席の空気が、とても良かった

これは書いておきたいことです。

客層がとても穏やかで、優しくて、気遣い合う雰囲気が溢れていました。 不思議と、なんだか嬉しくなる空間でした。

気づいたことがあります。素敵なお着物を着た方がたくさんいてはったんですが、みなさん帯のボリュームが少ない。 後ろの方の視界をさえぎらないよう、「背中が浮かないように」配慮されているようでした。

博多座でもそうされている方はいらっしゃいます。でも、明治座は見る限り、ほとんどの方が工夫されているように見えて、感心してしまいました。

これが「明治座だから」なのか、「右近丈のファン層だから」なのかは、わたしには分かりません。ただ、とても落ち着いて、ゆったりと観劇を楽しめたことは確かです。

一、藝阿呆|イヤホンガイドを借りればよかった

先に、いちばんの後悔から書きます。

この公演のイヤホンガイド、解説が右近丈ご本人なんです。

借りるかどうか、ずいぶん悩みました。でも——

  • 本人の声で本人の舞台を観たら「脳がバグるんじゃない?」という気がして
  • 同行者は「借りない派」
  • そしてわたしには、ひとりで借りると、借りていない同行者に気を遣って渡してしまう癖がある。……それだと、借りても一緒?

結局、借りないことにしました。これが、やっぱり失敗でした。

正直に言うと、よくわからんかったんです。

『藝阿呆』は、素敵な舞台だったと思います。ただ、歌舞伎というよりお芝居に近い感じでしょうか。

あとで調べて分かったのですが、『藝阿呆』は、もともと歌舞伎の演目ではありません。

  • 作・演出は安藤鶴夫さん。歌舞伎の作者ではなく、落語・文楽・歌舞伎・新劇の評論家です
  • 1960年、ラジオ放送のために書かれた義太夫の物語。その年の芸術祭賞を受けています
  • 題材は、明治の名人三代目竹本大隅太夫の一代記

様式で見せる古典の歌舞伎とは、出自が違うんですね。「お芝居に近い」と感じたのは、作品の成り立ちそのものだったようです。

そして——義太夫の語りで物語が進む作品です。語りが聞き取れなければ、筋を見失う。イヤホンガイドを借りるべきだった理由は、ここにありました。

義太夫の語りが何と言っているのか、聞き取りづらくて。 途中までは筋も追えている気がしていたのですが、繰り返し出てくる言葉が分からないまま進んで、気づけば置いていかれていました。

あとで調べたら「関西弁なので聞き取りづらい」と書いていらっしゃる方もいたのですが……関西弁ネイティブでも聞き取れませんでした。泣

ひとり「今からでも借りる? でもなー」と葛藤しながら、最後までそのまま。

今度から、観劇の予算にイヤホンガイド代も入れておこうと思います。

イヤホンガイドについては、こちらにも書いています
→ 初めての観劇マナー

二、鷺娘

『鷺娘』を観るのは、2回目です。

1回目は、長崎スタジアムシティのアリーナ歌舞伎。中村莟玉(かんぎょく)丈の鷺娘でした。あのときは「莟玉丈が鷺娘を舞われる」と聞いて、気づけばチケットを取っていたんです。

長崎のアリーナ歌舞伎は、こちらに書いています
→ 長崎スタジアムシティで“アリーナ歌舞伎”を観てきた

そして今回が、右近丈の鷺娘。

人ではないものを表現するときの、いろんな部分の美しさ。所作に魅入られる方も多いのではないでしょうか。

この演目には、衣裳の早替えが何度もあります。

途中、正面からだと開いた傘に隠れて見えないという演出があるのですが——横からだと、結構見えるんです。

勝手にハラハラしてしまって。心地よいハラハラですが……。

でも、そんな場面にも右近丈のお人柄の良さが滲み出ているようなところがあって、ほっこりしながら楽しませていただきました。演出なのかどうか分からない場面もありましたが、それも良かったです。

そして最後に——右近丈のこだわりが詰まった、「あっ」と驚く演出がありました。

三、春興鏡獅子

どの演目も良い! というのは間違いないのですが。

右近丈って、なんだか「大型犬」なイメージがありませんか? 明るく快活で、人懐っこい感じがするのです。

それが、この作品を観ていると——わたしの中の「歌舞伎俳優・尾上右近」という感じがするんです。そんなふうに思う方も、きっと多いはず。

……はぁ。今思い出しても、ニヤニヤしてしまいますね。

驚いたのは、花道の場面でした。

この演目には、体は前を向いたまま、来た道を後ろ向きに、花道から鳥屋(とや)まで戻っていく場面があります。顔は、床の辺りを見ているのではないかと思うのですが。

普通に考えたら「めっちゃ怖いよね?」と思ってしまうところです。

それが——足音が鳴った印象がない。なのに、めっちゃ速い。

さすがの芸歴というのでしょうか。本当にすごいお方です。

全体を通して、伸びやかで丁寧な所作。かと思えば、ダイナミックな足拍子。堪能させていただきました。

胡蝶の精のお二人

そして、とても愛らしい胡蝶の精のお二人。

仕草のひとつひとつが愛らしくて、綺麗。 小さいのに、本当にしっかりしていらっしゃる。小さい時から芸が染み込んではるんやろうな、と思いました。

この世界で輝いてくれることを想像してしまう、そんなお二人でした。(と思いつつ、気負わずにのびのび育ってほしい、とも)

右近丈のご挨拶

最後に、右近丈からご挨拶がありました。

「鏡獅子の姿で、ぜひ写真撮影を」とのことでしたので、撮影させていただきました。

春興鏡獅子の獅子の精の姿で金屏風の前に座る尾上右近丈
▲ ご挨拶のときに撮影させていただきました

話してはったのは、こんなことでした。

  • ひとつひとつの演目への思い入れ
  • 研の會は今年で10回目、そしてファイナルであること
  • 次の若い世代に繋げていきたいこと

ここで、やっと分かりました。

2015年から右近丈ご自身がプロデュースしてこられた自主公演が、10回目のこの公演で一区切りを迎える——あのTシャツの「FINAL」は、そういう意味だったのです。

知ったのが今回が初めてだったのが、本当に残念です。 もっと早く知っていたら、これまでの回にも足を運べたかもしれないのに。

最初は小さなホールで始めた自主公演。「好きでやっていることに、ついてきてくれてありがとう」——そんなことを言ってはりました。

なんだか、右近丈のお人柄の良さが滲み出ていて、そこに人がついていっているのだと思うんですよね。

おわりに

そんな気持ちになる、温かい公演でした。

10年の区切りの場に居合わせられたことを、ありがたく思っています。

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