今月の博多座は特別な公演なんです。尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎、そして尾上丑之助改め六代目尾上菊之助、音羽屋親子そろっての襲名披露興行。大劇場での締めくくりの地が博多座というのも、なんか嬉しいですよね。梅雨の博多へ、楽しみにしていた昼公演に行ってきました。

今回は花道横のお席。これが後々、ちょっとした驚きにつながるのですが……まずは演目の話から。
一、寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)
あらすじ 能楽の『翁』を題材にした格調高いご祝儀舞踊です。天下泰平・国土安穏・五穀豊穣を祈願する儀式的な演目で、翁(坂東彌十郎丈)と三番叟五人が豊かな実りを願って舞います。
襲名披露の幕開きにこれ以上ない演目やと思います。厳かさの中にも華やかさがあって、客席がぱっと晴れやかな空気に包まれる感じ。「ああ、歌舞伎が始まった」ってなれる、個人的にとても好きな演目です。
大谷廣松丈・中村鷹之資丈・中村莟玉丈・中村玉太郎丈・上村吉太朗丈の五人の三番叟、息もぴったり揃っていて本当に見ごたえがあります。襲名披露という特別な幕開きに、この演目を観ることができた。それだけで劇場に足を運んでよかったと思える、そんな一幕でした。
二、菅原伝授手習鑑 車引(くるまびき)
あらすじ 義太夫狂言の三大名作のひとつ『菅原伝授手習鑑』三段目。冤罪で太宰府へ流された菅原道真の悲運を背景に、道真の弟子三兄弟——梅王丸・松王丸・桜丸——が敵方の藤原時平の車を引き止め、それぞれの忠義と立場の違いをぶつけ合う荒事の名場面です。
梅王丸を演じたのは新・六代目尾上菊之助丈。元・丑之助くんが、今回から菊之助を名乗っての舞台です。変声期なのかなって感じる場面もあって、それでも精一杯工夫して声を出されている様子に、胸が熱くなりました。
昨年の歌舞伎座でこの梅王丸に初役で挑んで、それから一年で博多座の舞台に立っているなんて。これからどんどん成長していくんやろなぁと思うと、今から楽しみでたまりません。これからが本当に楽しみな役者さんです。
三、新古演劇十種の内 茨木(いばらき)
あらすじ 五世尾上菊五郎が制定した音羽屋の家の芸「新古演劇十種」のひとつ。源頼光の四天王・渡辺源次綱が羅生門で鬼の片腕を斬り落とした伝説を題材にしています。物忌みのために門を閉ざす綱のもとへ、伯母・真柴と名乗る人物が訪ねてきます。しかしその正体は、斬られた片腕を取り戻しに来た鬼神・茨木童子。左腕を失いながらも右腕だけで舞い、やがて恐ろしい鬼神の本性を現す、見どころ満載の舞踊劇です。
昼公演の大トリにして、最大の見どころ。新・八代目菊五郎丈が演じる茨木童子、もう圧倒的に妖艶でした。
そして今回、花道横のお席が大活躍することになったのがここ。気づいたら花道にすっと佇んでいらして——鳥屋が開く音もなく、いつの間に——! 思わず息を呑みました。周りのお客さんも「え、いつから?」という様子で驚かれていて、演じている役の空気も相まって客席全体がぎょっとなったのが伝わってきて。こういう瞬間が、花道近くの席の醍醐味やなぁと思います。
観劇を終えて
見応え十分、大迫力で大満足の昼公演でした。音羽屋親子の新たな門出に立ち会えて、本当によかったです。
幕間のお楽しみ なだ万のお弁当
今回の公演、幕間になだ万さんの特別出店があったので迷わず購入しました。
お味は……とても美味しかったです! 丁寧なお仕事で、さすがの一言。ただ、少しお高め感は否めない笑
それと実は、なだ万といえば南座でも見かけたことがあったから、てっきり関西のお店やと思い込んでいたんですよね。でも実は東京の老舗なんです。そのせいかどうかわからんけど、店員さんの愛想がちょっとあっさりしてて……関西人からしたら、もう少し愛想あってもいいんちゃう?笑 お弁当は文句なしに美味しいので、また出店があれば買いたいとは思いますけどね。
ただ——一点だけ、正直に書かせてください。
上演中の着信音、スマートフォンやスマートウォッチの操作音、ビニール袋や紙袋のガサガサ音が、今回はとても気になりました。博多座だけやなく、これもう社会現象なんちゃうかと思うくらい。開演前のアナウンスできちんとお願いしてくれてるのに……って気持ちになります。
映画『国宝』をきっかけに歌舞伎に興味を持ってくれる方が増えているのは嬉しいし、文化の間口が広がることは大切なことやと思っています。だからこそ、観劇マナーも事前にきちんと予習してから劇場に来てほしいなぁ、と。舞台の役者さんへの敬意として、隣で一緒に観ているお客さんへの思いやりとして、客席の静けさも一緒に守っていけたら、もっと素晴らしい時間になるはずです。
また次の公演も楽しみにしています。
六月博多座大歌舞伎 昼公演 2026年6月 演目:寿式三番叟 / 菅原伝授手習鑑 車引 / 新古演劇十種の内 茨木


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