歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』観劇レポート|博多座で心を掴まれた夜

観劇レポート

2025年2月11日(火・祝)、博多座の夜公演へ。演目は歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』。松本幸四郎丈がライを、尾上松也丈がサダミツを演じる舞台です。

本作はシェイクスピアの『リチャード三世』を下敷きに、劇団☆新感線の中島かずき氏が脚本、いのうえひでのり氏が演出を手がけた作品。戦乱の世、朧の森に棲む魔物・オボロとの取引を通じて、ライという男が国の頂点を目指す物語です。

ライはどんな嘘でもその場で仕立て上げる口先と、弟分・キンタの腕っぷしを武器に世を渡ってきた男。オボロに「望みをかなえてやろう」と告げられ、命と引き換えに「国の王になること」を望む。謀略を重ねて将軍の座にまで上り詰めていくさまは、圧倒的な迫力がありました。

そしてまず心を掴まれたのが、音楽と歌。民謡歌手・木津かおりさんの声が、劇中に響き渡るんです。伸びやかで、どこか異界を感じさせるような声。劇中にも出演されていて、その場にいるだけで空気が変わる。「歌舞伎でこんな体験ができるんや」と思わず鳥肌が立ちました。

ライとサダミツはW主演の交互出演という形で、どちらの視点から観るかによって作品の印象が変わるのも面白いところ。今回は幸四郎丈がライ、松也丈がサダミツを演じる回で観ましたが、ふたりの役が入れ替わるもう一方の回も観てみたかったと思わせる舞台でした。

キャストの中でとくに印象的だったのが、片岡千壽丈演じるオクマ。シリアスなシーンが続く中で、オクマが登場するたびに場の空気がふっと和む。可愛らしいキャラクターで、緊張感のある舞台にほっとする間を作ってくれました。坂東彌十郎丈のオオキミ、坂東新悟丈のシキブも印象に残っています。実は坂東彌十郎丈と坂東新悟丈は実の親子なんやけど、舞台では愛人役という関係。そのギャップもまた面白くて(笑)。

ライという人物について、生い立ちは作中ではあまり語られません。なのにもかかわらず、「なぜこの男はこうなったのか」とついつい思いを馳せてしまう。野心家だったから?それとも、この性質を持って生まれてきたから?答えは出んけど、だからこそ観終わった後もずっと頭に残る作品でした。

結末はネタバレになりますが……最後に宙乗りがあるんです。ライが空に上がっていくその姿が、まるで「自由になるための階段を上がっていく」ように見えて。中村時蔵丈演じるツナの言葉、視力を失った眼で何かを見据えて走るキンタの姿。それぞれの「その後」が断片的に重なって、胸にぐっとくる。

もっと幸せな着地点はなかったのか、と考えてしまう。けど、ライ的にはこの終わり方で良かったのかも、とも思えてくる。物事は多面体やなぁ、と改めて感じた一夜でした。

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